ジェラート作りやカクテル開発を通じて、バーテンダーという職業の新しい可能性を模索し続けている高宮さん。
2024年10月、カフェ&バー「æ 」(アッシュ)で実施したカフェレートとのコラボイベントでは、独自の視点で生み出したカクテルやジェラートを開発していただきました。
今回は、カフェ&バー「æ 」(アッシュ)のバーマネージャー滑川さんもゲストに迎えて、バーテンダーという仕事の可能性やカフェレートの魅力、おすすめのペアリングについてうかがいました。
▼イベント当日の様子。手前から高宮さん、滑川さん。(高宮さん公式Instagramより)
バーテンダーとしての挑戦と未来
ーまずは高宮さんの簡単なプロフィールと、普段のお仕事について教えてください。
高宮様:バーテンダーとしてのスタートは18歳のときでした。映画『カクテル』で描かれる世界に憧れ、「こんな仕事ができたら」と思ったのがきっかけです。それ以来、ずっとバーテンダーとしての道を歩んできました。
25歳で独立し、自分のお店を9年間運営しましたが、バーテンダー業界が抱える課題を改善していきたいという思いが強まりました。特に、女性バーテンダーが結婚や育児を理由に仕事を離れざるを得ない現状を寂しく感じて…。その思いを形にする場として、2018年に「TIGRATO(ティグラート)」という名前でお店をスタートしました。
ーTIGRATOは、どのようなコンセプトのお店なのでしょうか?
高宮様:TIGRATOは、ジェラート、カクテル、そしてカフェバーを組み合わせた新しいスタイルのお店です。「バーテンダーの仕事の幅を広げること」と「女性バーテンダーが働きやすい環境を作ること」をコンセプトにしています。夜だけでなく早い時間帯からも営業することで、ライフスタイルに合った働き方を提供できるよう工夫しています。
ー現在は、バーテンダーとしてのお仕事以外にも力を入れているとお聞きしました。
高宮様:今はジェラート作りに加え、チームビルディングにも注力しています。以前は、カクテルを作って「美味しい」と言ってもらえるのが何よりの喜びでしたが、今は一緒に働くメンバーが新しいことを覚えたり、発想を広げたりする姿を見ることに大きな喜びを感じます。もちろん現場に出たい気持ちはありますが、今はスタッフたちが作り上げているものを見守りたいという気持ちです。そのため、現場のサポートや売上分析、提案、相談を通じてチーム全体の成長を促す役割がメインになっていますね。
ただ、作ることは大好きなので、メニュー開発やコーチング、外部でのカクテル制作にも力を入れています。最近では、自動車メーカーや居酒屋など、異業種からのレシピ開発の依頼も増えています。そこで築いた人脈や経験を、現場に還元していけたらと思っています。
ー自動車メーカーのような異業種からの依頼も来るんですね。
高宮様:そうですね。バーテンダーの仕事は、カクテルを作るだけではなく、「空気を読む力」が求められる職業だと思っています。お客様との距離感を的確に見極め、その場に最適な接客を提供することが何より大切です。
自動車メーカーの場合、高額な車を販売する商談の場を、心地よい空間にしたいというニーズがあります。たとえば、コーヒーを出すタイミングや、お子さんへのちょっとした気遣いが、場を和ませ、結果的に商談の成功を後押しすることもあります。そうした仕事ができるバーテンダーという仕事を誇りに思います。
ーそうした細やかな接客は、人間だからこそ成し得るものですね。
高宮様:間違いないですね。近年、AIやITの発展などによって店舗の人員が減ってきていますが、高額な買い物をする際には、やはり人との関わりを求めるお客様が多いです。そういう意味では、僕たちが培ってきた「空気を読む力」は、これからの時代においてさらに重要性を増すと思っています。
依頼内容がコーヒーやデザートの提供であったとしても、その背景にある空間作りが本質であり、お客様にとって最高の時間を提供することが、バーテンダーとしての最大の価値だと感じています。
カフェレートとのコラボレーション―素材を引き立てる「人」との出会い
ーコーヒーカクテルを始められたきっかけについて教えていただけますか?
高宮様:もともとコーヒーは好きだったのですが、TIGRATOを開店してから本格的に勉強を始めました。滑川さんをはじめ、コーヒー業界の方々との出会いを通じて、多くのことを学ばせていただきました。
ただ、僕自身はバリスタのような専門技術を持っているわけではありません。そこで、コーヒーの魅力をカクテルで引き出すことに力を注ぎました。ありがたいことに、ティグラートのコーヒーカクテルは多くの方に認知され、それを目当てに訪れてくださるようになったのは本当に嬉しいことです。
ー今回、カフェレートとのコラボが実現した背景には、どのような経緯があったのでしょうか?
滑川様:アッシュはこれまで、イベントでペアリングを積極的に行ってきたわけではなく、フォーカスしているのは「人」です。ゲストシフトにバーテンダーを招いて、その方の個性や得意分野を活かしながらコラボ素材を最大限に引き立てることを重視しているんです。
今回は「カフェレートを活かせる人」と考えたときに、真っ先に浮かんだのが高宮さんでした。スイーツとドリンクの両方を手掛けられる希少なスキル、そして豊富な経験と技術が、このコラボレーションを形にする上で欠かせないと思いました。
高宮様:滑川さんとはコーヒーを通じて知り合いました。アッシュの姉妹店、The SG Clubにもよく足を運んでいたので、自然と親しくなったんです。飲食業界は狭いので、バーテンダーとバリスタの交流も多く、今回のコラボもそんな繋がりの延長線上で実現しました。ちなみに、最初のミーティングはサウナで行いました(笑)。
ーコラボメニューには、カクテル3種類とジェラート1種類の計4種類がありますが、メニューを考案する際、どのようなコンセプトを大切にされたのでしょうか?
高宮様:チョコレート様の素材を使ったカクテルというと、多くの場合「デザートカクテル」に偏りがちです。それを避けたかったんです。もちろん、思いっきりデザートとして楽しめるものも必要ですが、チョコレートを使いつつも軽やかで、甘さだけに頼らないカクテルも作りたいと考えました。全部が同じ系統だとどうしても飽きてしまいますからね。そこで、カフェレートの甘さや香りをベースにしながら、バリエーション豊かに仕上げました。
チョコレートやコーヒーを楽しむタイミングは人それぞれです。たとえば、仕事の合間やリラックスしたいとき、または一日の締めくくりに甘いものを味わいたい瞬間など。そういった「瞬間(とき)」に寄り添うカクテルやジェラートを提案したいという想いを込め、ネーミングにもそのテーマを反映しました。
カフェレートで広がるカクテルの世界
ー今回考案された3つのカクテルについて、それぞれの特徴を教えてください。
高宮様:「エレガントモメント」は、カフェレートの豊かな香りを存分に楽しんでいただける温かいカクテルです。コーヒーやチョコレートは温めることで香りが引き立ちます。そのため、このカクテルではカフェレートを刻み、お湯、てんさい糖、そして適度な酸味を持つカシスジュースを使ってシロップを作りました。さらに、黒糖リキュール、グレープフルーツ、バルサミコ酢を加えることで、奥行きのある味わいに仕上げています。濃厚なチョコレート感を活かしつつ、デミタスカップに注ぎ、控えめな量で提供することで、上質な一杯として楽しんでいただけます。
「タイムレス」は、アルコールをしっかり効かせたカクテルで、カクテル好きの方に特におすすめです。オールドファッションなどのクラシックカクテルを意識しつつ、カフェレートのシロップを使ったモダンな一杯に仕上げました。麦焼酎、グレープフルーツジュース、フランジェリコ、スイートベルモットを混ぜ合わせ、ペーパーフィルターで濾すことで見た目をクリアにしています。これにより、カフェレートの粒子を取り除きながらも風味を際立たせ、洗練された味わいと透明感を両立させました。
「タイムアフタータイム」は、芋焼酎をベースに、トロピカルなフルーツのフレーバーを取り入れたフルーティーなカクテルです。ピーチリキュールやパイナップル、エルダーフラワー、そして梅酒の酸味を組み合わせ、カカオの風味と調和させました。このカクテルもペーパーフィルターを使って濾し、見た目の透明感を大切にしています。シロップ自体はカフェレートそのもののような濃い色ですが、濾すことで見た目がクリアに仕上がり、飲む瞬間にカカオの芳醇な香りを存分に楽しんでいただけます。
ージェラートについても教えていただけますか?
高宮様:ジェラートにはカフェレートを刻んで使用しています。特に5種類のチーズと組み合わせることで、濃厚かつ奥深い味わいを実現しました。さらに、ドライフルーツや蜂蜜を加えることで風味に奥行きを持たせています。
当日のメニューはこちら:https://sipandguzzle.com/_wp/wp-content/uploads/2024/10/20241027_ASH.Menu_.pdf
ー今回、カフェレートを使ったカクテルをいろいろ作っていただきましたが、他にどのようなお酒や食材と相性が良いとお考えですか?
高宮様:ブドウ系のお酒、例えばワイン、シェリー、ポートワインなどは間違いなく相性抜群です。ナッツ系のリキュールとも自然と合いますね。個人的には、グレープフルーツは非常に使いやすい食材だと思っています。特に、コーヒーとの相性が抜群で、酸味を活かすのに最適です。
滑川様:シェリーのような甘味のあるお酒を隠し味に使うことで、カクテルに深みと厚みが生まれるんです。この技法はコーヒーカクテルでもよく用いられますね。実際、コーヒーの中にも赤いベリーやラズベリーのような香りを感じられるものがあります。こういった甘酸っぱいフルーツや熟した甘さのあるベリー感は、カフェレートと相性が良いと思います。
ー 本日は貴重なお話をありがとうございました。
高宮さん Instagram https://www.instagram.com/yu_takamiya/
TIGRATO Instagram https://www.instagram.com/tigrato.cafe_bar/
æ (ash) [zero-waste cafe & bar] Instagram https://www.instagram.com/ash_jinnan/